最近に購入した本を紹介します。工学デザイン系の必読書とも言われている本にも関わらず長らく廃版になっていて古本に法外な値段がついていたため見送っていましたが、2010年に再販され値段も落ち着いていたのでようやく購入しました。
人工物の形状の進化についての根本に迫る内容ですが、実は世の中の大半のことに当てはまるのではないでしょうか。文章はとても平易で多くの身近な実例と共に話が展開していくので、工学デザインに関係ない方でも興味深く読めると思います。ポイントは「人工物の形は機能に従うのではなく失敗に従う」「完璧な人工物は存在しない」ということで、日本古来の考え方である「失敗は成功の元」や「ゆく河の流れは絶えずして~」に通じるものがあります。
失敗の数が多いほど洗練に近づくというのは頭では分かっていても実践し続けるのは簡単ではありませんが、その重要さを再認識しました。建築設計に当てはめると実際に出来てから失敗に気付くというのは(実際はありますが)避けたいので、手書きで繰り返し線を引いては消すということになるでしょうか。CAD上でマウスとキーボードで線を引くのと筆記具で紙上に線を引くのでは当然感覚が異なり、紙上に線を引く際にはその線に沿って歩いている様子などが頭に浮かびやすく、歩いている途中に見えるものも想像しやすくなります。消しかすの量が失敗の量として残り消し跡がそれまでの思考の痕跡となるため、特に初期プランを考える上では手書きに勝るものは無いでしょう。また、ある時点での最良を求めることが必ずしも良い結果を導かないということも実感としてあります。これは非常に難しい判断になりますが、最大公約数的な妥協点を見つける嗅覚というのはエンジニア/デザイナーにとって非常に重要な能力です。
世の中はデジタル化が進んで情報過多と必要以上の疑似体験のために過度にリスクを避け失敗を糾弾する傾向がありますが、アナログにトライ&エラーを繰り返し続けることこそが人間が生物として生き残るために不可欠なことなのだと気付かせてくれる本だと思います。(柳本)