Little Plenty


<概要>
場所:神奈川県川崎市中原区
延べ面積:55.97平米
構造:RC造(リノベーション)
設計者自邸

都市居住のこれからに向けた、小さくても豊かな住まい
経済情勢と暮らしに向き合う、マクロとミクロの視点から

夫婦と子ども1人、3人のためのリノベーションです。

国土交通省「住生活基本計画」によると、3人家族が都市部で余裕をもって暮らすためには、おおよそ75㎡程度の面積が望ましいとされています。しかし、現実にはその水準を満たす住まいを確保するためには、多くの経済的ハードルが立ちはだかります。昨今の都市部におけるマンション価格の高騰に加え、金利や物価の上昇など、暮らしを取り巻く経済環境は大きく変化しています。
こうしたマクロな情勢の中で、子育て世代を含む一般的なファミリー世帯が「立地」「広さ」「経済性」などを兼ね備えた住まいを手に入れることは、ますます難しい状況になっていると感じます。

これらの課題をふまえ、最小限の面積で、最大限の快適性を目指すとともに、住まいとしての質を損なわないためのミクロな工夫を随所に散りばめました。

対象となるのは、南北に細長く、短辺側に2面採光を持つごく一般的な平面形状の一室です。
一見すると、採光・通風・動線ともに設計上の自由度が限られた空間。しかし、だからこそ以下のような操作によって、暮らしの質を高めることができると考えました。

・限られた窓面からの自然光の取り込みを最大化するための間仕切り設計
・普段の生活や来客時において、圧迫感を感じない視線の抜けと天井高の工夫
・必要最小限の収納を、使う場所に応じて最適配置することで生活動線と収納物の“住所”を整理
・固定観念を捨て、複数の用途を兼ねることで、面積効率を最大化
・必要な場所を照らす照明計画で空間の奥行を演出

上記のような工夫を比較的簡単な建築操作により実現することで、ある種、マイクロハウスのプロトタイプとしての可能性を感じる住まいとなりました。

将来にわたって続くであろう住環境の厳しさに対し、単なる妥協ではなく、新しい豊かさの在り方を提案する。本計画はその第一歩であり、誰もが“自分らしい暮らし”を叶えられる住まいづくりの糸口になれると幸いです。

玄関から南側の窓までの抜け感。長辺方向に最大限の視線の抜けを設けました。
正面に絵を飾ることでアイキャッチになります。

リビング
WICのR壁面が南側の光をダイニングキッチンへ。
ポーターズペイント仕上げた壁面。塗料の骨材が光をひろい、陰影を映し出します。

リビング西側の壁面はモルタル金鏝仕上げ。上部の梁型を覆うように存在感のある枕棚を設け、底面にライン照明を設けています。左側にはエアコンを設置。着脱可能なパネルで存在感を軽減しています。

ライン照明点灯時
モルタル仕上げの質感を強調してくれます。

右側の扉の先に1つ部屋があります。今は子どもが小さいので、仕事部屋として利用しています。

間仕切り壁を天井まで上げず、欄間を設けることで天井の広がり感、視線の抜け、光の抜けを確保しています。
個室の欄間には強化ガラスを設け、冷暖房効率にも配慮しました。

ドア枠を隠し、隠し丁番を採用することで壁とシームレスなノイズの少ない壁面を作れます。
ドアハンドルはFORMANIのT型レバーハンドルを採用。

リビングからダイニングキッチン
対角線上にダイニングキッチンを配置することで、体感距離を広く感じるように計画しています。

リビングの天井は内装用のきめ細かい木毛セメント板を採用。最上階のため、天井裏にグラスウール充填し、木毛セメント板にも若干の断熱効果と吸音効果を期待。

リビング照明は壁を照らすスポットライトと先ほどのライン照明、正面壁のバルブ電球のみで構成しています。

リビング床はフローリング張り、ダイニングキッチンの床は天然素材のリノリウム張りとしています。

リノリウムは平滑で複雑な模様のある材料のため、汚れが目立ちにくく、メンテナンス性にも非常に優れています。小さなお子様のいるご家庭にはおすすめの床材です。

正面の壁は、25ピッチの小幅加工を施したヒノキ羽目板で仕上げています。

テキスタイルカーテンの内側は洗濯室・納戸として利用しています。PSの位置関係上、洗濯機を洗面脱衣室に置くスペースを確保できなかった点、洗面脱衣室からトイレへの動線としているため、来客時の動線と重なる点を考慮し、あえて洗濯スペースを独立させました。換気扇を設置し、洗濯家事の洗う・干す・たたむ・仕舞うの一連の動作をこのスペースで完結できるように設計しています。

奥行きの大きな収納を設けており、天井まで収納として最大限利用。かつ、将来、仕事部屋がなくなることを見越し、LANとコンセントを設けているので、このスペースを書斎として活用することも可能です。

再販性を考えた場合にも、ひとつ小さくても書斎が作れるのは、価値あることに思います。

ダイニングキッチン全景

大きなダイニングテーブルは最大8人程度で利用でき、大人数での食事にも対応できます。シンクと連続したキッチン作業台としても併用するため、一般的なダイニングテーブルより高く、床から90cmの高さに設定しています。そのため、椅子はカウンターチェアを使用しています。

本来廊下になるスペースをダイニングと兼ねることで、面積効率の最大化を図りました。

カウンター高さを確保したことで、カウンターの下に高さ6cm程度の収納を設け、散らばりがちなキッチン廻りの小物や使用頻度の高い筆記用具、プリントや雑誌など収納しています。奥行が大きいのでノートパソコンも収まり、内部にコンセントを設けているので、こちらでリモートワークも可能です。

サンドイッチした2枚のランバー材でカウンターを持ち出しているので、カウンターの脚が不要になり、座る場所の自由度も高く設計しました。

ダイニングキッチンの正面には、水廻りをまとめたコアを配置しています。
小幅板で仕上げたコアの内部は洗面脱衣室、トイレ、浴室で構成されています。洗面脱衣室を経由してトイレにアクセスする動線とすることで、来客時でもトイレへ入る心理的ハードルを軽減させるよう計画しました。

ダイニングテーブルはモールテックスで仕上げ、水切り付きの大きなシンクを設置しています。シンクの右下部に食洗器を設置しているので、洗い物が非常にスムーズです。

キッチンと寝室の壁面に設けたガラスブロックの明り取り

長辺の中央部に位置するダイニングキッチンは、日中でも非常に暗くなることが想定された為、北側窓からの光を通すために壁の中段部をガラスブロック積みとしています。ガスコンロの側壁なので、不燃性も担保でき、一石二鳥の材料を採用しました。

ガラスブロックは設計者自身で施工

キッチンの飾り棚にCARL HANSEN & SONのTsugiシェルフを設置。継ぎ手の技術を応用した棚板で浮遊感があり、部屋のアクセントになっています。

シンクの背面には、動かすことができないダクトスペースがあります。柱状にタイルで化粧し、正面壁に鉄板を張り、マグボードとして利用しています。
こちらも設計者自身で施工しています。

奥のレースカーテンはNUNOで購入したものを設置。内部はWIC兼パントリーとして利用しています。

冷蔵庫を内部に置いていますが、冷蔵庫から出る湿気や匂いの問題があるので、一般的にはWICの中に置かないほうが良いです。今回は壁の上部が開いていることと、設計者の自邸ということで実験的に配置してみました。今のところ特に問題はありません。


カップボード、吊戸棚、食器棚、収蔵庫をすべて造作しています。流通量の多いポリランバーを多用することで、コストダウンを図りました。

洗面脱衣室

110cm幅の洗面台にモルタル製の洗面器を設置しています。壁水栓とすることで、メンテナンス性もアップしています。お客様も利用する場所なので、間接照明とダウンスポットライトで雰囲気良く演出しています。
洗面台下には収納ボックスを設け、リネン等収納しています。また、正面壁を全面鏡とすることで、視覚的な広がりを感じやすく計画しています。

向かって右側に浴室、左側にトイレを配置しています。

トイレ

洗面脱衣所からアクセスするトイレ。こちらもお客様が利用することを想定し、ハーフミラー電球の間接照明としています。基本的に少し暗めの照明計画としています。

玄関の下足棚は隣接する寝室に埋め込むように造作、設置しています。

下足棚は寝室から見ると部屋内に突出しているので、カウンターとして利用しています。

ガラスブロック部分から室内の光が漏れてくるので、子どもを寝かしつける際、うっすらLDKの気配を感じられ、安心して眠れるようです。

<Dining kitchen / night>



<Living / night>