昨年になりますが、ミラノデザインウィークに行ってきました。
その際に、ミラノから電車で1時間半くらいの場所にあるヴェローナへと足を伸ばしました。
目的はカルロ・スカルパ設計のカステル・ヴェッキオ博物館で、ここは自分の中で死ぬまでに一度は見ておきたい場所でした。
この博物館は14世紀に建てられたカステル・ヴェッキオ(古城の意)の一部を改修して博物館にしたもので、リノベーションの先駆けとも言えます。
設計者のカルロ・スカルパは建築関連の資格を取らずに活躍していた、どちらかというと理論よりは感性の建築家で、形態、素材、色の扱い方は他の誰にも真似できない素晴らしさがあります。
大学の最初の授業でスカルパについて学んだせいか、刷り込みのような感じで自分にとって特に思い入れのある建築家の一人でもありながら、作品がヴェネチア周辺にしか無いためになかなか訪れることができずにいました。
これまで何度もヨーロッパには足を踏み入れていたものの、なぜか南ヨーロッパに縁がなく、50手前でようやく訪れることができました。
それでは写真とともに振り返りたいと思います。
カステル・ヴェッキオはヴェローナの駅から徒歩で30~30分くらい歩くと見えてきます。
駅前からずっと低層の建物が並ぶのどかな街並みで、ゆったり散歩気分で歩いていて飽きることなく到着できると思います。
お堀沿いを歩いていくとアーチ状の入口がありますが、そこには入らずにさらに歩いていくとこのような橋が現れ、ここから入ります。
入っていくと、中庭のようなスペースがあり、その片隅に博物館の入口があります。
この衝立は入口と出口を分けるものになっています。
だいぶ味が出てきていますが、漆喰の壁にスチールで縁取るというのはスカルパがよく使う手法で、どこまで計算したかわかりませんが、縁取りの太さは屋外でもある程度耐えうる太さでぎりぎり野暮ったくならないラインで設定されているように思えます。
完成後60年が経っている割には屋外でよく残っていると思います。
中に入るとコンパクトな受付とお土産コーナーがあります。
今回、諸事情で小さなスーツケースを持ったままここまで来たのですが、受付横の箱に入れておいていいよと言われました。
鍵も何も無いのですが、雰囲気的にここは大丈夫な感じです。
受付から入ると、何度も写真で見ていた彫刻ギャラリーの光景が広がります。
想像していたよりはコンパクトな印象ですが、適度に人が入っていて空間に生気が感じられます。
一般的に博物館の展示物は直射日光が当たらないようにすることが多いですが、ここはトップライトの真下に展示があったりして、保存するという観点で問題がないのかわかりませんが、展示空間としてはとても印象的です。
展示物と内装は見事に調和しており、建物も展示の一部といった感じです。
時折差し込まれる色は地元の土を使った漆喰で、色の選択とボリューム感には机上の学びだけでは習得できないセンスを感じます。
屋内のパネルの縁取りは外部のパネルよりも若干細くなっていて、こういったさりげない調整で空間のイメージは結構変わるものです。
什器のちょっとした部分もシンプル過ぎずやりすぎない絶妙な造作になっています。
彫刻に対する自然光の当たり方は当然ながら時間とともに変化し、タイミングによってとても活き活きとして見える瞬間があります。
第一展示場の突き当りの出口ですが、この、アーチを覆いきらない建具の配置は初めて見たときには結構衝撃を受けたことを思い出します。
このような曲線と直線の使い方には少なからず影響を受けてますが、実際に取り入れようとするとなかなか壁と開口のボリュームのバランスが難しいものです。
彫刻とはいえ、何か、思索にふけっているように見えてきます。
ギャラリー終端からの見返し。
床は当時としては内装に使うのが目新しい素材であった色を付けたコンクリートを地元の石材で縁取りしてコストを抑えながらも格調高い意匠を実現しています。
スカルパは日本建築からけっこうな影響を受けていたようで、日本的なディテールが割とよく使われています。
この格子戸はスチールのフラットバーが竹編のように編み込まれています。
彫刻ギャラリーを出ると小さな中庭になっていて、逆L型のコンクリートパネルの上に彫刻が展示されています。
この彫刻はヴェローナに深く根ざしている人物とのことで、埋葬されている霊廟から市民が見れるように外に展示されているようです。
中庭の床も抜かりなく、モルタルをスチールで縁取るという細工がされています。
薄暗い階段室を登り2階へ。
外廊下をわたって絵画ギャラリーへ向かいます。
先程の彫刻を見下ろす感じでアプローチします。
ここでは木製パネルにスチールのフレームというディテール。
足の順番が決められた階段。
階段を登ると外廊下になっていて景色が楽しめます。
絵画ギャラリーエントランス。
このあたりの木部は竣工当時からメンテナンスされているのか、入れ替えがあったのか定かではありませんが、軒が深いのと地中海性気候であれば案外もってしまうのかもしれません。
絵画ギャラリーは割とあっさりと仕上げられています。
ここから下へと降りて一通り見学終了です。
階段の手摺は壁の質感に負けないごつめの楕円でした。
出口の部分で段差がありますが、アイキャッチを兼ねた可愛らしい意匠になっています。
今回の旅は息子との二人旅で、どうしても時間の制約なども出てくるのでもう少し時間の経過などゆっくり見たかったところではありますが、それでもとても良い天気の中堪能でき幸福な時間でした。
本当はヴェローナにもう一つスカルパの作品があるのですが、またいつか、ヴェネチアやブリオン家墓地などと一緒に見に来れる日を楽しみにしたいと思います。
この子連れ旅全体の様子はnoteで詳しく書いているので、子連れで建築を見に行くような旅にご興味のある方は是非ご覧ください。(柳本)