住宅設計者の自宅設計 17 階段

階段というのは、おそらく多くの設計者にとって力が入ってしまう場所で、あまり力みすぎないように気をつけないといけないと思いつつあれやこれやと考え続けてしまうものです。

そんなわけで、設計途中のブログでは階段についてまとめきれなかったのか、単に書き忘れていたのか覚えてませんが、何故か書いていなかった階段について。

階段を考えるポイントとしては、踏面と蹴上の寸法という基本的なところから始まり、階段を上り下りするときの目線や気分の変化、階段周りの空間との関係性や階段自体がどの様に見えるか、踏み心地、手すり関係などがあります。

少し長いですが、細かく見ていきたいと思います。

踏面と蹴上げ
踏面と蹴上げというのは階段1段の奥行きと高さのことで、建築基準法上は踏面が150mm以上、蹴上げが230mm以下となっています。

とはいえ、基準法ぎりぎりではかなり急で上り下りが大変なので、私の中では踏面が240~270mm、蹴上は180mm~210mmの範囲に収めるのを基本としていて、特に制限がない場合は踏面250mm、蹴上げ200mm(実際は階高で変わる)にすることが多いです。

踏面と蹴上

基本範囲内で最大と最小の傾斜での比較

経験上この範囲を超えると、急すぎるか緩すぎると感じますが、どうしてもスペースが取れない場合やロフト用などで急な階段をつくったり別荘などで特別な感じを出すためにゆるくすることはあります。

今回は階高が2500mmなので蹴上は
・13段上がりで192.3mm
・12段上がりで208.3mm
のいずれかが候補になり、全体の面積の小ささから少しでも段数は少ないほうが良いということと、避けられるなら13階段を避けようということで12段にしました。

上の図では最大傾斜が41.2度になっていますが、できれば40度は切りたいというのが本音で、踏面を基本の250mmにすると傾斜が39.8度になるので踏面は250mmで仮決めします。

目線と気分
階段というのは日常生活に溶け込んでいるものの、実は視界が上下に大きく変化するという、飛べない生き物にとってはなかなか特殊な経験ができる場になります。

また、2階建て住宅については、リビングのような開けた空間と寝室のような閉じられた空間の間に階段が設けられることが多く、気分を切り替える役割を担ったりもします。

今回は1階が寝室や水廻り、2階にLDKとなっているため、上がるときには2階の明るい雰囲気を感じられるように、下りるときには落ち着いた雰囲気になるような計画となっています。

階段

登り口を暗めにして2階の光がうっすらと落ちてくる

階段の形状はいろいろありますが、雰囲気を途中で変えるという意味で折り返しタイプの階段としています。

前半は両側の壁を立ち上げ視界を遮り、谷底から登るような雰囲気で踊り場のベンチに光を当ててひとまずの目標点となるようにしています。

階段

ベンチのある踊り場

踊り場にたどり着くと視界がひらけた明るい空間である玄関やリビングに視界が抜けます。

玄関を見下ろすのと2階の勾配天井を見上げることで中間地点であることが意識され、少し浮遊感のようなものが感じられます。

階段

スキップフロア的な踊り場

また、踊り場は一旦天井をかなり低くして2階の勾配天井とコントラストを強めています。

このように階段の途中で変化をつけると、その日の気分で階段の下半分に座っていたり、中間地点でごろごろしたりと居場所としても楽しむことができます。

周囲との関係
階段が廊下のみに面している場合は別ですが、居室などと面しているときには階段が周囲の空間に与える影響というのも重要なポイントになります。

まず、玄関に入ってすぐ階段が目につくようになっているのですが、これはどちらかというと来客時に「これから2階に上がってもらいます」という印象を与えるという目的があります。

階段と踊り場

玄関から2階への動線が意識される

それと同時に、2階から玄関にいる人に何かを受け渡す際に1階まで下りずに渡せるという(逆もあり)実用的な側面もあります。

玄関が暗い場合は2階の光を玄関に持ってくるためにこのような手法を取ることもあります。

一方、二階リビングにいる時は階段上を小上がりとして活用し、あまり階段としては意識されないような関係になっていますが、実はベンチから階段に下りれるようにもなっていて空間としてのつながりはあり、子どもはどちらからでも出入りしたりしています。

階段上の小上がり

階段上の小上がり

キッチン側からは腰壁に囲まれた穴のような感じで、音と共に何かが上がってくるかもしれないみたいなちょっとドキドキするような存在になっています。

2階と階段

キッチンから見る階段

一応、1階の奥の寝室からも階段は見えるようになっていますが、ここは階段下の窓から庭が意識されることを優先して、ストリップ階段などにはせずに他の光をしっかり遮る役割を強めています。

寝室から見た階段

寝室から見た階段

モノとしての見え方
階段を足元のものとしてみると、あまり階段自体を意識することは少ないかもしれませんが、目線の高さに持ってくると途端に意匠的に重要な役割をもつようになります。

玄関から見た階段

目線に階段が来る

玄関から上がり框に近づくにつれ、階段にもだんだんと近づいていくのですが、徐々に木目などがはっきりと見えるようになり、

階段アップ

目の前の段板

このような見え方になります。

このくらいの距離で見ると、蹴込み板の存在が非常に強くなり、ここで何を見たいかという観点で素材を選ぶことになります。

これはもう好みの問題ですが、私は広葉樹の板目がけっこう好きで、なかでも飽きが来にくい材料としてホワイトオークの無垢板を選んでいます。

ここまで間近で見えない場合は集成材を選ぶこともあるのですが、至近距離で単独で見る材料としては少々うるさいと感じます。

形態としては段板自体はなるべく継ぎ目を感じにくくしたいという思いがあり、下の図のように上面はノンスリップで継ぐような断面になっています。

階段板断面

段板と蹴込み板の詳細

下部については段板勝ちにするか蹴込み板勝ちにするかで迷いましたが、ましたから見ることは少ないので蹴込み板勝ちにしています。

階段

蹴込み板の裏表

蹴込み板勝ちにしたことで、ビスを止めた箇所の木栓が正面側に出るのですが、線と点のどちらを選ぶかというところで点を選んだ結果です。

踊り場は玄関から見た時に少し浮いた存在にしたかったので下からは細い柱一本で支え、上の手すりで吊るような構造にしています。

踏み心地
踏み心地というのはざっくりと固めか柔らかめといった選択になります。

蹴込部分が空いているストリップ階段の場合はどうしても中央部にある程度たわみができるので、同じ板の厚みだと少し柔らかい印象になりますが、蹴込み板まで無垢でつくるとかなり固くなります。

個人的には階段はしっかり固いほうが安心感があると思うのでストリップの場合は板厚を45mm以上にするなどで揺れの少ない仕様にすることが多いです。

今回は蹴込み板がしっかりしているので、板の厚みは踊り場下は段板が30mm、蹴込み板が20mmとなっていて、踊り場より上は共に30mmになっています。

蹴込み板の厚みが踊り場を境に違うのは木口の厚みが見える納まりかどうかが理由になります。

構造的には一般的なささら桁を使う方式ではなく、現場段板の下地を組んで固めていくようになっています。

階段工事中

施工中

かなり大工さんの腕に頼る作り方ですが、構造的にうまく組み合わせると階段下のスペースを最大限活かせるようになります。

手すり
手すりは単体で一つの記事にできるくらい設計者にとって力が入る部分ですが、シンプルな棒というのが一番万人向けなように思います。

ストレートな階段の場合は本当に棒一本でいけますが、折り返しの場合は折り返し部分の処理をどうするかは悩ましいところです。

一番シンプルなのは一旦切って2本の棒で構成する方法ですが、できれば連続している方が役割としても見た目も良いと思います。

理想は一本の木を曲げながらつくれれば良いのですが、コストや施工性から現実的ではないので、周り部分にブラケットなどを付けずに跳ね出した手すりをつなぐようなつくり方にしました。

階段手すり

なるべくシームレスにしたい手すり

手すりを固定するブラケットはなるべく目立たないようにしたく、既製品は使わずに鋼棒を曲げたものに手すりを差し込むようなつくりにしています。

手すり

廻り部分は跳ね出しを繋ぐ

手すりの材料は階段に合わせるのが無難ですが、今回はコスト面でタモの丸棒で直径は32mmです。

タモとホワイトオークは面材で見ると結構違いますが、線材として使う分にはあまり差がわかりません。

最後に、階段の断面図を載せておきます。

階段断面図

踊り場から下

階段断面図

踊り場から上

これまで弊社で設計した階段の一部を抜粋したページもありますので、あれこれ想像しながら見ていただけると幸いです。(柳本)
階段ページ:https://ekip.co.jp/works/%e9%9a%8e%e6%ae%b5/